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判例研究

判例研究

TOP判例研究満期保険の一時所得の計算について

満期保険の一時所得の計算について

満期保険金に係る法人負担保険料の一時所得からの控除の可否
最高裁判所第一小法廷平成24年01月16日判決

(一部破棄差戻し、一部棄却・納税者敗訴)

福岡高裁平成22年12月21日判決(原判決取消・納税者敗訴)
福岡地裁平成22年3月15日判決(原処分取消・納税者勝訴)

裁判要旨

1 所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」の支出の主体
2 法人が保険料を支払った養老保険契約に係る満期保険金を当該法人の代表者が受け取った場合において、上記満期保険金に係る当該代表者の一時所得の金額の計算上、上記保険料のうち当該法人における保険料として損金経理がされた部分が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとされた事例
3 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断に違法があるとされた事例

主文

1 原判決中、第1審被告の敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 第1審原告の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は第1審原告の負担とする。

理由

本件の事実関係等の概要

1 本件は、第1審原告の経営する医療法人が契約者となり、保険料を支払った養老保険契約(被保険者が保険期間内に死亡した場合には死亡保険金が支払われ、保険期間満了まで生存していた場合には満期保険金が支払われる生命保険契約をいう。以下同じ。)に基づいて満期保険金の支払を受けた第1審原告が、その満期保険金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入した上で、当該法人の支払った上記保険料の全額が一時所得の金額の計算上控除し得る「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)に当たるとして、所得税(平成17年分)の確定申告をしたところ、上記保険料のうちその2分の1に相当する第1審原告に対する役員報酬として損金経理がされた部分以外は上記「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、上記各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。

国税不服審判所平成18年6月30日裁決・裁決事例集71号299項

仕訳 保険料 / ××× 2分の1
役員報酬 / ××× 2分の1
貸付金
仮受金 注1.


(1)所得税法34条2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から所定の特別控除額を控除した金額とすると定めている。所得税法施行令183条2項2号は、生命保険契約等に基づく一時金にかかる一時所得の金額の計算について、当該生命保険契約等にかかる保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入すると定める一方で、同号イないしニにおいて、当該支出した金額に総額を算入しない掛金等を列挙しているが、その列挙された掛金等の中に、養老保険契約に係る保険料は含まれていない。

(2)所得税基本通達(昭和45年7月1日直審(所)30(例規))34-4はその本文(注以外の部分)において、所得税法施行令183条2項2号に規定する保険料又は掛金の総額には、その一時金の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(これらの金額のうち、相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により所得したものとみなされる一時金に係る部分の金額を除く。)も含まれる旨を定め、その注において、使用者が役員又は使用人のために負担した保険料又は掛金でその者につきその月中に負担する金額の合計額が300円以下であるために給与等として課税されなかったものの額は、同号に規定する保険料又は掛金の総額に含まれる旨を定めている。


3 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)第1審原告が理事長として経営する医療法人(以下「本件法人」という。)は、平成12年12月1日、生命保険会社との間で、被保険者を第1審原告の子ら、満期日を平成17年11月30日、被保険者が満期前に死亡した場合の死亡保険金合計3,000万円の受取人を本件法人、被保険者が満期日まで生存した場合の満期保険金合計3,000万円の受取人を第1審原告とする3口の養老保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件法人は、本件契約に基づき、31,101,780円余の保険料(以下「本件支払保険料」という。)を支払ったが、うち2分の1の部分については、本件法人において第1審原告に対する役員報酬として損金経理がされ、第1審原告にその給与として課税された(以下、当該部分を「本件報酬経理部分」という。)。他方、その余の部分については、本件法人において保険料として損金経理がされた(以下、当該部分を「本件保険料経理部分」という。)。そして、本件契約の満期日において、被保険者が生存していたため、第1審原告は、合計3,000万円の満期保険金(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。
(2)第1審原告は、平成17年分の所得税につき、本件保険金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入した上で、本件支払保険料の全額が、所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たり、一時所得の金額の計算上控除し得るとして確定申告書を所轄税務署長に提出したが、所轄税務署長は、本件支払保険料はその全額がこれに当たらず、一時所得の金額の計算上控除できないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。第1審原告は、上記各処分を不服として、所轄税務署長に対し、異議申立てをし、これを棄却する旨の決定がされたことから、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、前記(1)の経理処理を踏まえ、本件支払保険料のうち、本件報酬経理部分については、「その収入を得るために支出した金額」に当たり、一時所得の金額の計算上控除できるが、本件保険料経理部分はこれに当たらず、控除できないとして、上記各処分の一部を取り消す旨の裁決をした(以下、同裁決により一部取り消された後の上記各処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。そこで第1審原告は、本件更正処分のうち申告額を超える部分及び本件賦課決定処分の各取消しを求めて、本訴を提起した。なお、所得税に関する市販の解説書には、従業員が生命保険契約に係る保険金の支払を受けた場合において、企業が支払った保険料は、従業員の給与所得としての課税の有無にかかわらず、企業負担分を従業員が負担したものとして取り扱う旨の見解を採るものが複数存在した。


4 原審は、本件支払保険料のうち、本件保険料経理部分は所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして、第1審原告の請求のうち本件更正処分の一部取消しを求める部分を棄却すべきものとする一方で、所得税基本通達34-4は、その本文のみを見れば、一時所得の金額の計算上、本件保険料経理部分を控除することができるかのような誤解を生じかねないものであり、前記のような市販の解説書も存在することからすると、第1審原告において、その平成17年分の一時所得の金額の計算上、本件保険料経理部分を総収入金額から控除したことはやむを得ないものであり,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定める「正当な理由があると認められる」場合に当たるとして、第1審原告の請求のうち本件賦課決定処分の取消しを求める部分を認容すべきものとした。

考察

「その収入を得るために支出した金額」について

1. 税理士 山本 展也氏は、国税不服審判所平成18年6月30日裁決の判例解説で、「所得税の条理上当然」とする見解も一応理解できるが、請求人が主張するとおり、条文や通達の字句をそのまま読めば、審判所の裁決と反対の結論を導く実務家は多いと思われる。
注2.
と判例解説をしている。
しかし、弁護士 山畑 浩博史氏は、福岡高等裁判所の判例解説で、「法令の趣旨・目的、租税の基本原則、税負担の公平性・相当性等総合考慮し、法的安定性、予測可能性を損なうことのない限度で、租税法令を客観的、合理的に解釈することも許される」としているものの、実際に判決理由に示された、上記解釈に至る(課税庁側の主張を排除する)具体的な根拠・理由をみる限りでは、専ら、文言解釈を施すことにより、結論を導いていると考えられるところであって、本判決の解釈は、租税法規につき文理解釈を原則とする立場から当然に導き出される帰結とは言い難いように思われる。
注3.
としている。
つまり、金子 宏教授は、租税法の解釈は、「租税法は、侵害法規であり、法的安定性の要請が働くから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことはゆるされない」とされ、「文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に、規定の趣旨目的に照らしてその意味内容を明らかにしなければならない」とされている。
注4.
そして、池本 征男氏は、例えば、満期保険金を受け取った者がその保険料の一部を負担し、残りの保険料を他の者が負担していた場合には、保険金の一部が贈与税の課税対象となるにも関わらず、それに対応する保険料等も一時所得の金額の計算上控除されることになる。
法人所得金額の計算上控除された保険料等については、保険金等を受け取った個人の一時所得の計算に当たって再びこれを差し引くということを予定していないというべきである。
注5.
と述べている。
しかして、佐藤 孝一氏は、所得税法22条は、居住者に対して課する所得税の課税標準を定め、所得税法34条2項の規定の解釈適用は所得税法22条1項及び2項の規定と整合するものでなければならず、当該居住者を総収入金額及び支出の主体とした規定であることは、その法文上、明らかなことと思われる。
注6.
としている。
また、青山 慶二教授は、法令の不備によるものではなく、借用概念の解釈というレベルの問題ではなく、「支出した」行為の主体の解釈の問題であり、税法全体の構成・文脈の中で文理解釈により解決できる場合は、21年判決の指摘する「規定されていない要件の付加」とか、「国民に予測できない課税」との批判は、当たらないものと考えられる。
注7.
と述べている。
それに対して、増田 英俊教授は、文理解釈を原則とする立場を明示し、その立場から本件の争点である所得税法34条2項の文言に忠実に解釈を加えた点にある。立法の不備の問題であるということができる。
注8.
とされている。
したがって、弁護士 堀 招子氏は、福岡地方裁判所の判例解説で、文言解釈を施すことにより、結論を導いていると考えられるところであって、最高裁判所は、文言のみならず十分に法の趣旨・目的に照らした解釈をしたこと、施行令が委任立法によるものであるという点および法令と通達は峻別(租税法律主義にいう法律に「通達」は含まれない)という点を踏まえた解釈をしたことにあると考える。同種の事案についての最高裁平成24年1月13日判決における須藤正彦裁判官の補足意見からよく読み取れるところである。
注9.
としている。

2. 金子 宏教授は、通達は、法源と同様の機能を果している、といっても過言ではない。たしかに、租税法規の統一的な執行を確保するために、通達が必要なことはいうまでもない。もし、通達がなく、各税務署ごとに独自の判断で租税法を解釈・適用するとなると、租税行政は甚だしい混乱に陥ることになろう。しかし、通達のこのような重要性にかんがみ、その内容は法令に抵触するものであってはならない。すなわち、法令が要求している以上の義務を通達によって納税者に課すことがあってはならないと同時に、法令の根拠なしに通達限りで納税義務を免除したり軽減することもゆるされない。
注10.
としている。  また、増田 英俊教授は、通達は法律ではないところから、租税行政庁による通達の使い分けがおこなわれやすい。通達の使い分けが行われると、納税者の予測可能性は確保されない。
注11.
通達課税の弊害は、通達は納税者の論拠にはなり得ず、租税行政庁の恣意的課税の温床になりかけない危険があることにある。
注8.
としている。

3. 須藤正彦裁判官の補足意見
類似の判決で、課税庁は、恣意的に拡張解釈や類推解釈などを行って課税要件の該当性を肯定して課税することは許されないというべきである。逆にいえば、租税法の趣旨・目的に照らすなどして厳格に解釈し、そのことによって当該条項の意義が、確定的に明らかにされるのであれば、その条項に従って課税要件の当てはめを行うことは、租税法律主義(課税要件明確主義)に何ら反するものではない。
いわんや一般に通達は法規の解釈を法的に拘束するものではなく、同施行令同号も、同通達も、いずれも所得税法34条2項と整合的に解されるべきであるし、またそのように解し得るものである。

「正当な理由」について

平成23年(行ヒ)第105号上告代理人須藤典明ほかの上告受理申立て理由について
過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実をあげようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁、最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁、最高裁平成17年(行ヒ)第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照。)

イ. 最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号   1611頁
依頼したB税理士が自己の利益のために被上告人を騙して虚偽の申告を行った事件

ロ. 最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60  巻4号1728頁
税理士が、税務職員と共謀して架空経費を計上した上内容虚偽の納税申告書を作成、提出した事件

ハ. 最高裁平成17年(行ヒ)第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁
親会社の米国法人から付与されたストックオプションを行使して得た権利行使益についてこれが所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとした事件

私見

1. 「税務当局がその監修等をしていたり、上記解説書が上記のような見解を採るべき法令解釈上の具体的な根拠を示していたりするなどの事情はうかがわれない。」としているが、過去の判例では、OBの監修の通り申告して敗訴した事例があり最高裁判所の判決文と思えない。

2. 一連の裁判で、平成23年6月30日以降に支払いを受けるべき生命保険契約等に基づく一時金に係る保険料又は掛金については立法的なてあてがなされた。

3. 所得税法は、34条2項もまた、一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨のものであり、同項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解される。文言解釈を施すことにより、条文や通達の字句をそのまま読み、結論を導く実務家は多いと思われる。

4. 最高裁判所の裁判官(須藤正彦裁判官)が、武富士事件以後から租税法律主義に沿った判決をしている。最高裁判所の裁判官が、自分で判断できるようになってきた。特に、須藤正彦裁判官の補足意見は、すばらしい。

注1. 税務事例 財経詳報社 山本 展也著 (Ⅴol.39 No.8)2007・8 P.25
注2. 税務事例 財経詳報社 山本 展也著 (Ⅴol.39 No.8)2007・8 P.29
注3. 速報判例解説 TKCローライブラリー 租税法No.25 平成21年10月6日
P.4 弁護士 山畑 浩博史
注4. 租税法(第16版) ㈱弘文堂 金子 宏著 P.108
注5. 国税速報 大蔵財務協会 池本 征男著 P.27~28
注6. 税務事例 財経詳報社 佐藤 孝一著 (Ⅴol.42 No.8)2010・8 P.5
注7. TKC税研情報 2011.12 青山 慶二著 P.75~76
注8. TKC税研情報 2010.10 増田 英俊著 P.9~10
注9. 税經通信 2012 4  税務経理協会  弁護士 堀 招子 P.148
注10. 租税法(第16版) ㈱弘文堂  金子 宏著 P.103
注11. 12. リーガルマインド租税法(第3版)㈱成文堂 増田 英俊著 P.45,P.146