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判例研究

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TOP判例研究>優待入場券の無償交付と清掃業務委託料の差額 ~オリエンタルランド事件~

優待入場券の無償交付と清掃業務委託料の差額 ~オリエンタルランド事件~

(1)事実の概要

東京ディズニーランド(TDL)などの運営会社「オリエンタルランド」(OLC、千葉県浦安市)原告は、遊園施設の運営等を業とする株式会社であるが、平成11年3月期ないし同17年3月期の各年度(以下「本件各係争年度」という。)分法人税について、①本社ビル等の清掃業務(以下「本件清掃業務」という。)につきB会社に対して支払った業務委託料(以下「本件委託料」という。)を損金の額に算入し、②事業関係者等に対して交付したOLCが運営する遊園施設への入場及びその施設の利用等を無償とする優待入場券(以下「本券優待入場券」という。)については何ら課税上の処理を行わなかった。
これに対し、市川税務署長(処分行政庁)は、本件委託料のうち、B会社がC会社等に対して再委託し、当該再委託料(以下「本件再委託料」という。)との差額(以下「本件委託料差額」という。)及び本券優待入場券に係る費用相当額が租税特別措置法(以下「措置法」という。)61条の4にいう交際費等に当たるとして、当該各金員を損金不算入とする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び本件委託料差額に係る過少申告部分については重加税の各賦課決定(以下各処分を一括して「本件各課税処分」という。)をした。
X会社は、本件各課税処分を不服とし、前審手続きを経て、国(被告)に対して同処分の取り消しを求めて本訴を提起した。なお、消費税の課税処分については、省略する。※注1

(2)裁判例にみる交際費等の成立要件

大渕博義教授は、「租税特別措置法上の交際費等の成立要件につき、従前の裁判例の考え方を分類すると次のような三つの類型に分けることができるとしている。

接待の相手方と目的、態様及び支出金額の高額性により判断するもの

この考え方に立つ裁判例として、東京地裁昭和44年11月27日判決(行集20巻11号150頁)がある。判決は交際費等の要件として、第一に、当該事業経費が「事業に関係ある者」に対して支出されたものであることであり、「事業に関係ある者」には、近い将来、事業に関係をもつにいたるべき者を含むが、不特定多数の者まで含むものではない。その第二は、「接待、きょう応、慰安、贈答」等企業活動における交際を目的とするものであって、商品、製品等の広告宣伝を目的とするものではないということである。この両目的は相排斥する絶対的なものではなく、現実においては、その主たる目的がそのいずれかに存するかによって、当該経費の性質を決定すべきである。第三に支出金額が比較的高額であるということである、と判示する。

支出の相手方と支出の目的、態様とするもの

この考え方に立つものとして、東京高裁昭和52年11月30日判決(行集28巻11号1257頁)がある。同判決は、法人の支出が法63条5項に定める交際費等に当るとされるためには、同条項の規定の文理上明らかなように、その要件として、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に当該支出が接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものであることを必要とするが、それ以外には格別、控訴人主張のような支出金額が比較的高額であることや冗・濫費性を帯びていること等を独立の要件とすべきものとは解されず、また、当該支出が事業の遂行に不可欠なものであるか否か、定額的な支出であるか否か等の判断は、交際費等の認定に直接の必要性を有しない、と判示している。
また、東京地裁昭和53年1月26日判決(シュト193号21頁)は、当該支出が交際費等に該当するというためには、第一に支出の相手方が事業の用に関係のある者であること、第二に支出の目的が接待、きょう応、慰安、贈答等の行為により、事業関係者との間の親睦の度を密にして、取引関係の円滑な進行を図るのを目的とすることを必要とするものというべきである、としている。

支出の相手方、支出の目的を基本要件とし、支出の目的については支出の動機、金額等で総合的に判断するもの

この立場に立つものとして東京地裁昭和50年6月24日判決(シュト160号55頁)があるが、判決は、交際費に該当するかどうかについては、(ⅰ)支出の相手方が事業に関係のある者であること、(ⅱ)支出の目的が接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為を目的とすることを必要とするのであるが、支出の目的が接待等を意図しているかどうかについては、さらに支出の動機、金額、態様、効果等具体的事情を総合的に判断しなければならない。」 萬有製薬事件の最高裁の判決以前では、「以上のように交際費等の成立要件に関する従前の裁判例は、三つの類型に分類することができる」、としていた。※注2

萬有製薬事件の最高裁の判決後では、交際費の認定基準は、
1.支出の目的が、取引関係の円滑化を図る等の交際目的であること、
2.支出の相手先が、事業に関係のある者であること、
3.行為の態様が、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること、
という3つの要件を具備する必要がある、とする三要件説が採られるべきで、被接待者において接待等の認識が必要である。この点、萬有製菓事件(東京高裁平成15年9月9日判決、TAINSコードZ253-9426)が新二要件説を採る地裁判決を破棄し、明確に三要件説の立場から納税者勝訴判決を下している。
大渕博義教授は、交際費課税「制度創設の趣旨、目的に鑑みれば、リピーター創出が不可欠の遊園地業にとって、その一環としての本件優待入場者に係る運営原価は、遊園地運営にとって不可欠な原価支出であり、かかる原価が交際費課税の対象となる交際費等の概念に馴染まないものであることは多言を要しない」と結論づけられ、判決を批判している。

(3)原審の判断の税法解釈上の誤謬

増田 英敏教授によると萬有製薬事件の最高裁の判決では、「交際費の範囲を判断する要件を措置法の規定の解釈により、次のように導き出している。
すなわち、「措置法61条の4第3項は、同法61条の4第1項に規定する『交際費等』の意義について、『交際費、接待費、機密費その他費用で、法人が、その得意先、仕入れ先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう』と規定しており、『交際費等』が、一般的に支出の相手方及び目的に照らして、取引関係の相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものと理解されていることからすれば、当該支出が『交際費等』に該当するか否かを判断するには、支出が『事業に関係ある者』のためにするものであるか否か、及び、支出の目的が接待等を意図するものであるか否かが検討されるべきこととなる。そして、支出の目的が接待等のためであるか否かについては、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断すべきであって、当該支出の目的は、支出者の主観的事情だけではなく、外部から認識し得る客観的事情も総合して認定すべきである。」として、交際費の範囲を判断する要件として①支出の相手方と、②支出の目的の二つの要件を明らかにしている。この要件の適用に際しては、その支出をの動機、金額、態様などを総合的に加味して客観的に判断すべきであるとしている。
しかしながら、当該措置法を文言の構成により分析すると、原審の提示した2要件のみを法が要件としているとはいえないことが確認できる。
すなわち、書き出しの「交際費、接待費、機密費その他の費用」の文言は、交際費、接待費、機密費というようにすでに費用項目として、企業会計上の費用概念を明示的に示している。費用概念は収益を獲得するために費消された経済価値を示すものであり、収益を獲得するために交際するといった、まさに目的を明示したものと解釈できる。その文言自体が、支出の意図をうかがわせるものであり、「支出の目的」を示したものといえよう。次の「得意先、仕入れ先その他事業に関係ある者等に対し」との文言は、まさしく支出の相手方を明示したものであることは間違いない。措置法の文言から、支出の目的と相手方の二つの要件をまず明示していることには異論の余地はないであろう。
ところが、措置法は次に、「接待、きょう応、慰安、贈答その他これに類する行為」との文言を追加している。もし、原審が示した2要件を法が求めているのであれば、この部分の文言は不要であるはずである。あえて、この文言を条文に追加しているのは、この2要件のみでは、交際費の範囲を具体的に確定するには不充分であるとして具体的に行為に形態を明示したものと立法者の意図を読み取ることができる。「接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為」の文言には「費」が付されておらず、費用概念を明示したものとは明らかに区別される。そこで、接待、共応、慰安といった文言は、目的と相手方、そしてその目的を遂行する行為形態を具体的に明示したものと解することが合理的である。
当該措置法の解釈について、故・松沢智教授は、「同条は、交際費等となるための要件として、『交際費、接待費機密費その他の費用』(支出の目的)、『得意先、仕入れ先その他事業に関係のある者等に対し』(支出の相手先)、『接待、きょう応、慰安、贈答その他これに類する行為』(行為の形態)の三要件を規定している。従って、交際費等となるためには、支出の目的、支出の相手先、行為の形態の要件を具備したうえで、その意義を考えねばならぬ。」ときわめて簡潔かつ明確に述べておられる。
交際費の要件を①支出の目的、②支出の相手先の二つの要件に行為形態の要件を加え、3要件と解することにより、要件の具体性は飛躍的に向上する。
ところで、法人の支出する費用とされるものは、すべて事業遂行に直接的もしくは間接的に有益であるはずであり、その支出の相手方が事業関係者でないはずはない。利益極大化を目的とする法人が、事業関係者以外に事業遂行に不要な支出をすることは特別な場合を除き考えられない。そうすると、支出の目的と支出の相手先の2要件説にたつと、法人の支出する費用のうちの多くが、この二つの要件を充足するという結果を招く。そこで、書き出しの「交際費、接待費、機密費その他費用」の「その他費用」という文言の解釈いかんによっては交際費の範囲を明らかにする限界線が不明確となり、拡張されることがありうる。「交際費、接待費、機密費」と「その他の費用」を並列の関係に捉えると、その他の費用には交際費や機密費に類似しない費用もすべて含まれるという解釈も成り立ちうる。「その他の」という文言は税法の条文では多用されるが、この文言の解釈いかんによっては課税要件明確主義に抵触する結果を招くことに注意が払われるべきである。
そのような危惧を排除するためにも、交際費の第三の判断要件として「行為の形態」を法が要求していると解釈することは適正であり、有益であるのである。行為形態の要件は、このような拡張解釈を阻止するのに効果的であり、課税要件明確主義にも寄与するものといえる。※注3

もし、当該措置法の後段の「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」との文言を重要視し、交際費等の範囲は無限定ではなく、ここに具体的に法の文言として例示された「行為の形態」が、交際費等の範囲を確定する要件として用いられたならば、行為形態に該当しないとして紛争は回避されたであろう。
課税要件の範囲があいまいであり、その要件の射程がいたずらに拡張される結果を招く場合には、当該課税要件の文言は不確定概念が存在するのと同様に、行政による恣意的課税の危険をはらむ。この場合には、法解釈により、そのあいまいさ、もしくは不明確さを取り除く努力が必要となる。法解釈により明確にできない場合には、法改正などの措置が必要となる。明確な規定への法改正を租税法律主義は立法者に要求しているのである。
あいまいとされる交際費等の範囲を適正な法解釈により明確にしたという点で、本件控訴審の判断は、租税法律主義の課税要件明確主義の視点からも評価できるものである。この条文の構成からすれば、「行為の形態」を例示することにより、交際費等の範囲を明確にし、結果として納税者の予測可能性の確保を図るといった立法者の意思を反映した解釈を示したものといえる。※注4
また、金子 宏教授は、「その相手方がそれによって利益を受けていると認識し得る客観的状況のもとで支出されていること、が必要であると解すべきである」とされておられる。
大阪高判昭和52年3月18日判決も、「一方、会社からの金員の支出が交際費と認められるためには、会社が取引関係の円滑な進行を図るために支出するという意図を有したことを要するのは当然であるが、そればかりでなく、その支出によって接待等の利益を受ける者が会社からの支出によってその利益を受けていると認識できるような客観的な状況の下に右接待等が行われたものであることを要するのは、いうまでもないところである」として、ある支出が交際費に該当するための要件として、支出の相手方による利益を享受していることの客観的な認識の存在が指摘されている。この指摘は合理的である。なぜならば、相手方自身が利益享受していることを認識できないような状況下でなされる支出は、支出法人にとっては不合理な支出で、その効果が客観的に認識できないような支出は、コスト削減にしのぎを削る企業環境下ではありえない、と思われるからである。※注5

(4)結論

本件の先例として萬有製薬事件は、価値は極めて高いことを、まずここで確認しておきたい。なぜならば、本件の争点は、「交際費等」の意義を規定する措置法61条の4第1項の適正な法解釈はいかにあるべきかに集約された事案であったからである。まさに、萬有製薬事件では、同規定の射程を確定する法解釈をめぐる議論が主たる争点とされたのである。この点は、判決文を検討すれば明確である。
従来から租税行政庁は、この税法上の「交際費等」は、企業会計上ないし社会通念上の交際費概念より相当広い概念であるとの立場から、取引関係の円滑な進行を図ることに直接的もしくは間接的に寄与すると判断された支出は、その行為の形態を問わず、交際費に該当するとして、租税行政実務を遂行してきた。裁判例においても、①支出の目的と②支出の相手方の、2要件を充足する場合には、交際費であるとの立場が採用されてきた。本件の原審の判断その立場を踏襲したものといえよう。
もし、当該措置法の後段の「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」との文言を重要視し、交際費等の範囲は無限定ではなく、ここに具体的に法の文言として例示された「行為の形態」が、交際費等の範囲を確定する要件として用いられたならば、行為形態に該当しないとして紛争は回避された。その後、金子 宏教授は、萬有製薬事件の三要件説を著書で認めている。※注6
自社の少額なサービスや製品を事業関係者に提供して、販売促進や広告宣伝を目的とすることは、一般に行われている。特に映画館等への招待入場券などは、よく見かけるところである。広告宣伝費等との区別も困難であり、その費用額を正確に算定することも困難である。※注7 「事業の開始にあたって、顧客層を開拓するため多数の者を事業の場所に招待する費用は、広告宣伝費等にあたると解すべきである」としている。あいまいで課税条文が存在していない。※注8
遊園地の優待券の経済的価値が高いことから行われた課税である。※注9
法律でない通達61の4(1)-15(6)では、「総会屋等」と表現しているが、総会屋の定義がおいていない。※注10
裁判所の判断で法律でない通達を堂々と用いているので、失当であり、品格がない。食事券の使用に係る費用を接待費等とし処理しているのは、適正な会計処理である。
課税要件の範囲があいまいであり、その要件の射程がいたずらに拡張される結果を招く場合には、当該課税要件の文言は不確定概念が存在するのと同様に、行政による恣意的課税の危険をはらむ。この場合には、法解釈により、そのあいまいさ、もしくは不明確さを取り除く努力が必要となる。法解釈により明確にできない場合には、法改正などの措置が必要となる。明確な規定への法改正を租税法律主義は立法者に要求しているのである。
あいまいとされる交際費等の範囲を適正な法解釈により明確にしなければならない。 この条文の構成からすれば、「行為の形態」を例示することにより、交際費等の範囲を明確にし、結果として納税者の予測可能性の確保を図るものでなければならない。※注11
課税庁は、序文で租税法律主義を論じているが、結論を租税公平主義としている。支離滅裂である。中小企業が、12月の賞与を現物で支給をしたと同じである。租税公平主義の条文の無い恣意的・政策的見地から法人税の課税の基礎となる所得の金額の計算をしている。租税法律主義に基づく、判決を望みたい。※注12

※注1.TKC税務情報 VOL.19 4/1 品川 芳宣著 P.39
※注2.裁判例・裁決例からみた役員給与・交際費・寄付金の税務 大渕博義著 税務研究会出版局  P.410~411
※注3.リーガルマインド租税法 増田 英敏著 成文堂 P.315~318
※注4.リーガルマインド租税法 増田 英敏著 成文堂 P.322
※注5.リーガルマインド租税法 増田 英敏著 成文堂 P.315
※注6.租税法 第16版 金子 宏 弘文堂 P.341
※注7.TKC税務情報 VOL.19 4/1 品川 芳宣著 P.48
※注8.租税法 第16版 金子 宏 弘文堂 P.341
※注9.税務事例 Vo1.43 No.1 大渕博義著 脚注品川 芳宣 P.7
※TKC税務情報 VOL.19 4/1 品川 芳宣著 P.49
※注10.交際費の理論と実務 三訂版 山本 守之著 税務経理協会  P.324
※注11.リーガルマインド租税法 増田 英敏著 成文堂 P.321~322
※注12.税務事例 Vol.43 No.1 大渕博義著 P.2